2020年2月8日土曜日

影の名作映画ご紹介①「ミリオンダラー・ホテル」 -果たして本当に巨匠の失敗作なのか?落伍者が集まるホテルと、傷つきすぎた男の人生最後の恋の物語-

映画ファンが、映画について語るブログは数多くあり、よく知られている映画はいろんな人が、其々の解釈で既に語っているため、あまり多く語られてなさそうな映画を題材にブログを書いてみることにしました。題して「影の名作映画ご紹介!」
このコーナーでは、この映画自分は好きだけど、他の映画ファンはこの映画のことあまり語っていないな・・と、いう、いわば自分が影の名作映画だと思っている映画について書きたいと思っています。少しでも、自分が影の名作だと信じる映画のファンが増えることを期待して・・・

そして、「影の名作映画ご紹介」というお題目で映画を語るなら、まず自分にとって絶対外せない映画があります。

第一弾は、ヴィム・ヴェンダース監督の「ミリオンダラー・ホテル」です。



自分が「ミリオンダラー・ホテル」を初めて観たのは高校生の時。当時は映画より洋楽にはまっていて、U2のボノが脚本を書き、さらにこの映画に新曲も提供しているということから興味を惹かれて観ました。どちらかといえば音楽を聴きたくて観る、という変わった動機で見たにも関わらず、この映画のどこか幻想的ともいえる雰囲気に魅了されました。高校生の時以来からこの映画の世界は心の片隅に残ったままであり、自分の映画史を語る上では外せないマイベスト映画の一つになりました。

ミリオンダラー・ホテルの背景と登場人物、簡単なあらすじについてご紹介します。

まず、舞台はロサンゼルスのダウンタウンにあるミリオンダラー・ホテルという、落ちぶれたボロボロな安ホテルです。このホテルは、かつては夢を持っていたが、それが叶わず人生の落伍者となった人達が集う場所となっていました。

主人公トムトムは、このホテルの住人の1人であり、知的障害を持っている・・少なくとも、周りからは知的障害者だと思われている男性です。
ただ、映画を観るとわかりますが、トムトムが本当に知的障害者なのか?実はもう治ってるけど、それでもあえて知的障害者を演じているのではないかと思う場面があります。
後者の場合、何故演じるのでしょうか?・・トムトムという人物を観ていて1つ感じたのは、彼は今までの人生で、他人から何度も深く傷つけられてきたのであろうということです。この映画の中でも、安ホテルの住民たちの何人かは、トムトムをバカ扱い。だから、トムトムは知的障害者を演じているほうがずっと生きやすかったのかもしれない・・と思いました。

安ホテルで粛々と生きてきたトムトムの人生を変えたのは、エロイーズという女性との出会いでした。このエロイーズという女性は、裸足でホテルの外を歩き回り、昼間は古本屋に積み上げられた本の中に身を潜めるようにして、ひたすら読書を楽しみ、夜は体を売ることで生計を立てている女性のようです。この映画の中で描かれるエロイーズという女性の魅力は強烈で、まるで中世ヨーロッパの絵画のようです。
幻惑的で、退廃的で、ミステリアスで・・まるで数百年分の時間の流れが積み上げられているような、そんな深みを感じる謎に包まれている女性です。



この映画の中で、トムトムはエロイーズに何故惹かれたかを一切説明しません。しかし、そんな説明は必要ないと感じますし、むしろ説明するだけ野暮でしょう。

トムトムにとってのもう1人の重要人物は、イギーという男です。彼は映画が始まった時点で故人であり、かつてトムトムの親友でした。エロイーズとも顔見知りだったようです。イギーはミリオンダラー・ホテルの屋上から転落して死んでおり、調査のためにFBI捜査官スキナーがホテルに派遣されます。この捜査官スキナーは、トムトムに知性がある事を見出している、数少ない人物にみえます。

物語は、トムトムとエロイーズのラブストーリーと、スキナーのイギー殺人犯探しを軸に進みます。さらにイギーの遺産である絵画を巡って話は発展していきますが、主軸はあくまでトムトムとエロイーズ、そしてイギーの殺人犯・・です。

トムトムとエロイーズが2人でホテルの一室にいる時間が描かれますが、2人きりで部屋に居る間のトムトムとエロイーズの表情をみると、今まで人に傷つけられてきた事や、今までの人生の失敗や、安ホテルに身を置くしかない惨めな人生は全て遠い過去に葬られているかのようです。そしてそんな2人が佇む安ホテルの一室も、この二人にとっては人生で最も大切な、特別な空間のように輝いてみえます。

知的障害者として生きる以外の選択肢がない、傷つけられたトムトムの、人生最期の恋。
「ミリオンダラー・ホテル」は、ただ人生の美しさについて語っている・・そんな映画だと思います。



追伸;
「ミリオンダラー・ホテル」はベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したものの、アメリカでは批評も評判も最低だった模様です。しかし、監督ヴィム・ヴェンダースはこの映画を自身の失敗作だとは思っていないようです。むしろ「私は本当に、この映画の事が大好きになった」という風なことをインタビューで語っています。このインタビュー記事は「ミリオンダラーホテル」の映画パンフレットに書かれていました。

ブログを書いた後、少しググってみましたが、、やはりこの映画の熱心なファンな方はいますね。圧倒的な魅力ですもんね・・この映画のミラ・ジョヴォウィッチ。





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